ニュージーランド8日目
ニュージーランド8
【ワイン島ワイヘキへ】
オークランドのフェリー乗り場ダウンタウン口に朝9時45分にビルさんと待ち合わせてワイヘキ島へ向かう。
さすがシティ・オブ・セイルズと言われるオークランドだけあって、アート作品のような美しいボートやクルーザー達が優雅に海に佇んでいた。
この景色が見たくて港の近くのホテルにした為、図らずともフェリー乗り場までは徒歩5分程度の距離だった。
フェリーから見える朝の大都市オークランドと点在する島々のコントラストは素晴らしいく、島に着く前からワクワクした。800年ほど前の火山活動で生まれたNZで最も新しい島であるランギトト島を通り過ぎるとワイヘキ島が間近に迫った。コバルトブルーの海と砂浜があり、1週間前に見た南島の荒れ狂うワカヌイビーチと比べると同じ国とは思えないほどの差を感じた。日本でいうと沖縄と東北の違いのような感覚。
【パッセージロックへ】
到着後レンタカーに乗り換えてパッセージロックに向かった。リゾート感があるハワイの田舎のような雰囲気の街を横切って山のほうへ進んでいく。マヌカの木が多く自生する島内は起伏にとんでいて様々な景色を楽しめた。
パッセージロックに着くとオーナーワインメーカーのデイビッドさんが出迎えてくれた。さっそく、ワカヌイに送る予定の造り途中のワイン試飲するかい?と言って2024年の今年採れた葡萄の白濁したSBを試飲させてくれた。まだ糖が残ったアルコール発酵中の酵母の香りがあるワインは微発砲でジューシー、優しい旨味があり普段のSBとは全く違う。その為仕上がりはなかなか想像出来なかったが純粋においしかった。
レストランの経営もしているパッセージロックは自前のワインだけであらゆる料理に対応できるほどの様々な品種や造り方のワインをラインナップしていて、その全てを試飲させてくれた。魚醤のソースがついた地元ワイヘキ島でとれたパシフィックオイスターのTENPURAをつまみながらSB、ヴィオニエやシャルドネ。赤ワインに移行すると何度も飲んでるはずのシラーが素晴らしく美味しく感じた。その理由は単に現地で飲んでいるからだけではなく、グラスの影響が大きかった。試しに他のグラスに変えて飲んでみたが明らかにオーナーに提供されたブルゴーニュグラスのほうがパッセージロックシラーをより魅力的なものにしていた。デイビッドさん曰く、人もグラスも腹が出てるほうが緊張感がなくて(おおらかで)良いだろ。とのこと。今後パッセージロックはずんぐりグラスでの提供を推奨したい。また、ワカヌイでは扱いがないスペシャルなワインのライナップもありこれまで良年に2回しか造ってないデイビッドさんの名前を冠したシラーは特に素晴らしく。ワカヌイへのお土産にする為購入させてもらった。
肉が焼けたから気に入ったワインを持って席についてと言われて朝一の大量ステーキにちょっと戸惑いながら着席した。グリル板の下からは炭、横からは薪をセットできるピッツァの窯を改造したような特殊なオーブンで焼かれたラムラックは2才からラムチョップを食べてる娘がNZで1番美味しかったというほどの仕上がりだった。(トマホークの牛ステーキは香りは良いが火がしっかり入っていた)
開放的な店内は葡萄畑が一望できて素晴らしい眺めだった。食事中に降り出した雨が嘘だったかのように晴れ渡ったころに次の目的地に向かった。
[マンオーワー]
マンオーワーはでワイヘキ島の20%を所有するオーナーが経営するワイナリーだ。セレブリティなオーナーだけあってレストランの目の前、手が届きそうなところにマンオーワーベイと看板があるプライベートビーチ、店内の設えも豪華で裏に子供用の遊具まで備えつけられ、遊び心にも溢れていた。
マンオーワーはイギリス海軍の戦艦の名前で、この島最初の産業はその戦艦を造る為の木材を提供することだった。一直線に伸びしなりがあるその特殊な木はマストにぴったりだったのだ。ここのオーナーはその頃からこのビジネスをしていた一族の末裔との事。
島内の様々な畑を所有している為どの場所でどの品種が適しているかを細かく研究しているようで遥か未来を見据えたワイヘキ最高のワイン造りを目指している。
カウンターにはチリ出身の若い女性のソムリエが1人で立っていた。ワインの勉強の為ここで働いているらしく、マスターソムリエのステージ2を最近合格したらしい。(優秀だが、めっちゃお喋り)
全てのワインの事細かな説明を落語の如く調子をつけながら表現豊かにしてくれた。パッセージロックのようなストレートな美味しさやおおからさはなく、変わりに品種を問わず一貫した一種の緊張感や難解さを持ったいわば玄人むけのワインが並んだ。同じ島、同じ品種のラインナップでも造り手や考え方次第で全然違う。レストランではターゲットが違うワインをリストに同居させていることで様々なお客様に合ったワインを提供できる。キャラクターを見極めてシーンに合わせて販売していきたい。ワインではなく[MAKE WINE NOT WAR ]のバックプリントがあり、着るタイミングに困るマンオーワーのオリジナルTシャツをお土産に頂いて次の目的地に向かった。
【ストームウッド】
美しいビーチを後にして無舗装の道路を進んで行き、丘をこえたところに真っ白な木製の門があった。
看板も何もない入り口、個人の邸宅のようなワイナリーだなあと思って中に入ると本当に個人の別荘だった。
様々なオブジェやヘリポートがある庭の向こうに葡萄畑、外階段を上がると丘の上から海が一望できるプール、つい最近アメリカのアーティストのピンクが遊びに来たという、豪華絢爛なホリデーハウスの一角にストームウッドワイナリーはあった。
ワインメーカーの2人は普段はオブシディアンなど他のワイナリーで働いており、ここのオーナーから2人の好きにしていいから良いワインを造ってくれと言われてるようで、規模は小さいが最新最高の機材も揃えていた。その為2人のチャレンジ精神溢れるワインが並んでいた。
大理石のカウンターのすぐ裏に新樽が並ぶカーブがあり、バトナージュの実演や発酵中のワインを見せてくれた。新樽で発酵させたシャルドネは40%だけマロラクティック発酵させていて果実酸の爽やかさを残しながらそのバックに繊細ななアロマを隠している。多角的な酸を感じとれるお洒落な仕上がりだった。ワイン単体のインパクトより食事と合わせた時により本領を発揮できる仕立てになっているように感じた。
スパイスが先頭にくる印象的なシラーは以前パッセージロックが所有していたワイヘキで1番古いシラーの畑を買い取って造っている。その畑は数年不作が続いてデイビッドさんが手放したようだが、2020年以降それから数年良い年が続いているようで2人は大いに喜んでいた。化粧付けのない純粋さを感じる仕上がりで、重すぎない繊細な味わいは現代的なタッチでこちらも間違いなく食事を楽しませてくれる。
次回新しくワカヌイのワインリストに入るワイナリーであるストームウッドは知名度はまだまだ低いが真剣に少量の良質ワインを造り出していた。NZ国内でさえマニアックなワインを日本で扱えるのは本当に面白く有り難いことだ。
この辺りでもうほぼ完全に酔っている。
正気に戻った時は帰りのフェリーの中にいた。この時ビルさんが買ってくれたビール、スパイツサミットラガーは夕日が傾きだした船の上にピッタリだった。NZの政治や移民の問題、マオリと西洋人とのすれ違いなど地球の歩き方には載ってないリアルなNZの話をビルさんから教えてもらってとても勉強になった。
フェリー乗り場で一日中運転や案内をしてくれたビルさんに感謝を告げてお別れてホテルに戻った。
今回の旅の最大の山場である3日間のワイナリーツアーはこれにて幕を下ろした。行く前は少なからず不安もあったが全力で取り込む事で今まで見えてなかった様々なことを得る事ができた。言語化不能なほどの量のインプットの要点をなんとか文章にまとめることもできた。
迎えてくれた全てのワインメーカーの方々と特にビルさんには頭があがらない。心からの感謝をお伝えしたい。
次回が最終回!
おわり